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がん治療に取り組む医療関係医者の皆様へ。その治療の先にあるものはなんですか?がん治療に前向きに取り組む患者の皆様へ。その治療が終われば苦しみからは解放されますか?サバイバーが増えれば増えるほど、多彩になっていく不安と苦しみ。がん患者の旅に終わりはなく、それに最後までつきあってくれる人は……いったいどれだけいるのでしょうか?<ワケあり患者・小春>
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 7月17日。最初の診察日がやってきた。
 乳腺科の南田先生(仮名)は、組織検査の結果について以下のように説明してくれた。

 まずは病期(進行度)について。
 これはしこりの大きさとリンパへの転移があるかどうかで決まる。
 当然、大きさは小さい方がいいし、転移はないほうがいい(一般的には大きいほど転移している確率が高くなるが、小さくても転移している場合もある)。
 私のしこりは最大径で27ミリ程度。すごく小さいとは言えないが、決して大きくはない。
 1期から4期まである中では2期にあたる(0期というのもあるが、これは乳管内のみにとどまって管外への浸潤がない状態。この状態ではまず触っただけではわからない)。
 リンパへの転移(最初は腋のリンパに転移する)は、今のところはなさそうだが、正確なところは切ってみなければわからないとのこと。

 次にがんの広がり具合について。
 しこりに存在するがん細胞は、時間が経つにつれて、蜘蛛の巣のように張り巡らされている乳管をつたって乳房全体に広がっていく。
 しこりが小さくても、広がり具合が大きいとそれだけ切除部分も大きくなるわけで、病期だけでは安心できない。
 この広がり具合も、今のところは「それほど広がっていなさそう」という診断だった。

 さらに、がん細胞の性質として、今後の治療法を決める目安となるデータがいくつかわかった。
 ひとつは「ホルモン受容体の有無」。
 これは、女性ホルモンを餌として育っていくタイプのがんであるか、そうでないかという診断で、もし前者ならば「ホルモン剤(女性ホルモンをブロックする薬)」を使うことでがんが育たないようにすることができる。
 つまり、乳がんは、数あるがんの中でも、「抗がん剤」以外の薬が有効という点で、選択肢がひとつよけいにあるわけだ。
 当然だが、後者であればホルモン剤は使っても効果がない。
 検査対象となる女性ホルモンは、エストロゲンとプロゲステロンの2つ。
 私の場合は両ホルモンともマックスの感受性を示す数値が出た。

 もうひとつはがん細胞にHER2(ハーツー)という遺伝子があるかどうか。
 これが陽性だとがんの増殖能力が高いと言われており、ちょっと前までは恐れられていたが、今は分子標的薬(ハーセプチン)というHER2の増殖能力を抑える薬が登場したため、前よりは安心できるようになったという。
 もちろん、これも陽性の人にしか効果がない薬なので、全員に使っても意味がない。
 私の検査結果は2+。
 0か1+であれば陰性で、3+だと陽性。2+は「境界域」らしい。
 この場合、FISH法というさらに詳細な検査をして「陰性」か「陽性」かを決めるのだが、この結果が出るのはけっこう時間がかかる。

 がんの悪性度を判断する材料としては、HER2の他に「核異型度」という指標がある。
 どのくらい変形しているかの度合いをみるらしいが、これは3段階評価で「1」。
 まあ比較的おとなしい性質の「良い子」ということらしい。

 以上が私のがんについての身上書(?)だ。
 今後の検査でもう少し明らかになることもあるが、最終的には外科手術で組織をまるごととりだし、すみからすみまでくまなく病理検査を行うことによってすべてがはっきりする。
 今後の検査については、7月30日にCT検査を行って肺や脳、肝臓などの他臓器に遠隔転移がないかどうかを見て(それによってまた治療法が変わってくる)、さらに8月20日にMRI検査でがんの広がり具合をさらに細かくチェック。
 手術は最短で8月31日に予約できるという。
 驚いたことに、南田先生は、このすべての予約をすでに入れておいてくれたらしい。

 乳がんを治療するにあたって、まずおさえておかなくてはならないこと。
 それは、乳がんは「乳房という局所にできた悪性のできもの」ではなく、「全身病」だということだ。
 がんにもいろいろあるが、乳がんは育つのが遅い。
 今は乳房内にしかがん細胞を発見できなくても、発見できないレベルの大きさで全身のどこかにすでに同胞が散らばっている可能性がおおいにあるのだ。

 昔はがんがある部分だけを切り取れば終わりという外科レベルのみの話だったが、今は手術が終わったあとに、放射線をかけるなり、抗がん剤を使うなりして、「どこかに芽吹いているかもしれないがん細胞」を機銃掃射することが必須になっている。
 それをしておかないと、時間差で育ってきたがん細胞が、5年後、10年後にどこからか顔を出すかもしれない。
 だから今の乳がん治療には、「外科」だけでなく、腫瘍内科や放射線科など(再建手術をするなら形成外科も)いろいろな科の連携プレーが必要になっている。

 乳がんの標準的な治療は以下の通りだ。
 まず、大きさや広がり具合によって一部を切り取り乳房を残す「温存」か、乳房全部を切除するいわゆる「全摘」かを決める。
 もちろん、切ってみて「思ったより広がっている」「思ったより転移している」ということがわかった場合は、手術中に「温存」から「全摘」に切り替える場合もある。
 うちの母の場合も、麻酔から覚めたときに「残ってるのかどうか」がわからず、誰も何も言ってくれないので「これは全摘されたんだ」と思い込んだという(実際は最小限の温存で済んだわけだが)。
 ここで温存だった場合は、残った乳房に放射線をかけるのが一般的なやり方だ。
 これは残りの乳房内での再発率をおさえるための予防治療である。
 全摘の場合にはこれは省略される。

 乳房についての治療は以上で、あとは全身治療が行われる。
 方法は抗がん剤治療、ホルモン治療、分子標的薬など。
 抗がん剤以外は、がんのタイプによって使える人と使えない人がいるということは前述した通りだ。
 それらを考慮した上で、複数の治療を組み合わせたり、単独で行ったりするわけだが、このへんのやり方は、データ的にまったく同じ病状であっても、病院によって、医師によって異なってくる。

 さらに、患者の価値観(なにを最優先させ、なにをあきらめるか)によってもとる治療は変わってくるので、乳がんの治療は本当に奥が深い。
 これはもう乳房の数だけ治療法があるといってもいいのかもしれない。
 自分の目にふれる部分だけに、内臓の切除とはまた違ったデリケートな問題を抱えているのが乳がんの難しさだ。
 説明が長くなったが、ここをおさえておかないと話が先に進まないので、乳がんになったら、「医療素人レベル」でこれくらいは知っておいたほうがいいだろうという前提をあえて最初にまとめてみた。

 さて、ここからが本題。
 今までの話はあくまでも一般論。前科がない人のケースだ。
 私が乳がんと聞いたとたん、まっさきに脳裏をよぎったのは、「私はもう放射線はかけられない。普通だったら温存できる大きさでも、温存と放射線治療がセットになっている以上、問答無用で全摘されるんだろうな」という絶望的な予測だった。

 誰だって全摘なんてしたくはない。
 ましてや、今は昔に比べて「温存できるケース」が増えているのだから、できうる限り温存したいと思うのが当然だ。
 それに、病巣が大きく広がってしまっているのならまだしかたがないと思える部分もあるが、上記の身上書を見てもわかる通り、今の私の状態は通常なら充分温存できるケースなのだ(と南田先生にも言われた)。
 にもかかわらず、過去の野蛮な放射線治療のせいで二次発癌を起こし(南田先生はその可能性も認めた)、その治療のせいで温存できる乳房が全摘されるのか。

 そう思うと過去にあじわってきた怒りや悔しさや恨みがあとからあとからこみあげてきて、「治療を頑張る」とかいう問題以前に、こんな病院と和解したことが悔やまれてならなかった。
 まわりの人から「乳がんには今いい治療法がどんどん出てきてるっていうし…」と言われるたびに、「違う!私は乳がんでおちこんでるわけじゃない。どんなにいい治療法があったって私には使えない。乳がんの治療もできない身体にした病院が憎くて、でもそれをぶつける場所がないことにいらだっている自分をどうしようもできなくて悲しいんだよ!!」と心の中で叫び続けた。

 それでも、まだ私は放射線治療ができるかもしれないという一縷の望みを抱いていた。
 今は医療も進歩して、今までには考えられなかったようなハイテクな照射方法が編み出されているかもしれない。
 そうでも思わなければ診察を受けに行く気力も萎えそうだった。
 今日はまず南田先生にそのことを質問しなければ。
 南田先生に過去の話がどこまで伝わっているのかはわからなかったが、今日南田先生の診察を受けることは秋吉先生も知っているはずなので、きっと事情はわかってくれているだろう。

 「あの…私は過去にかなりの量の放射線照射を受けているんですが、今回は放射線治療を受けられるんでしょうか」
 こう切り出すと、南田先生は、すぐに「無理ですね」というのではなく、まずは「乳房の照射にはこういう方法があって…」と図に書きながら説明をし始めた。
 その話に耳を傾けようとした瞬間である。
 信じられないことが起こった。

 突然、南田先生の後ろにひかれていたカーテンがジャッと勢いよく開いて、秋吉先生が飛び出してきたのだ。
 顔面は蒼白で、表情はひきつっている。
 どう見てもたまたま通りかかったのではなく、「盗み聞きしていてたまらずにとびだしてきた」という感じだった。
 「あの…今ずっと後ろで聞いてて、いてもたってもいられなくなって出てきちゃったんですけど…」
 しかも自分で言ってるし!
 口早に言い訳をしたあと、ひときわ大きな声で秋吉先生は叫んだ。

 「放射線はできませんから!」

 その異様な雰囲気にのまれて、南田先生も私も母もしばらく言葉を失った。
 その間を埋めるようにさらに秋吉先生は叫んだ。
 「前回、胸部までかかってますし…私にはできません!無理です!絶対に!」
 誰も反論していないのに秋吉先生は一人で「できない」を連呼した。
 「有明の癌研なら部分切除で放射線なしという手術もやっているようですが、それはあくまでも標準外の治療ですから」
 なぜか他の病院の情報まで流している。
 これはどういう意味なのか。
 「うちでは標準治療の全摘しかできない。他へ行ったほうがあなたのためよ」というメッセージなのか?
 呆然としているうちに、再びジャッとカーテンが閉まり、秋吉先生は退場してしまった。

 「えーと…そういうことで」と我に返って本題に戻る南田先生。
 先生もあきらかに秋吉先生の行動に戸惑っている様子だった。
 「今秋吉先生がおっしゃってたように、放射線がかけられないということになると標準治療では全摘になりますね」

 標準治療とは、世界的に効果と安全性が認められているオーソドックスな治療法のことで、標準からはずれた治療をすれば当然リスクも高くなるということだが、病院によっては新しい治療法を確立するために、積極的に標準外の治療に取り組んでいるところもある。
 有明の癌研は、病理に絶対的な自信をもっているため、残った部分に放射線をかけなくても、かけた人と再発率は変わらないというデータを持っているらしい。
 じつは私もその情報については事前に調べていたので、病院を移るのは難しいとしても、せめて有明のセカンドオピニオンは聞いてみたいと思っていたのだ。
 このままなにもせずにL病院の言われるがままになるのはあまりにもやりきれない。

 南田先生も「乳がんは急激に進行する心配はまずないので、納得できない点があるなら考えたり調べたりする時間をとったほうがいいですよ」という。
 とにかく、これから少し他の病院の情報を収集してみよう。
 今度こそ後悔がないように。

 それにしても秋吉先生…なぜカーテンの後ろでこそこそ立ち聞きなんてしてたんだろう。
 この病院では私の主治医的立場なんだし、南田先生に話を通したのも秋吉先生なんだし、堂々と最初から同席すればいいのに…。
 主治医が立ち聞きなんてどう考えてもおかしすぎる。
 いろいろ理由を推測してみたが、結局答えはみつからなかった。

 が、このときの違和感は、あとになって決定的な形で現れることになるのだった。

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お読みになる前に…
年が明けて、三度目のがんがみつかってしまいました。
25年間で新たながんが3回……さすがにこれはないでしょう。

がん治療ががんを呼び、また治療を勧められてがんを呼び……はっきり言って「がん治療」成功してないです。
私は「生きた失敗作」です。
医者は認めようとしませんが、失敗されたうえに「なかった」ことにされるのは耐えられません。

だから息のある限り語り続けます。
「これでいいのか?がん治療」……と。

漂流の発端をたどると1988年から話を始めることになります。
西洋医学の限界とともに歩んできた私の25年間をご覧ください。

別サイト「闘病、いたしません。」で第1部「悪性リンパ腫」から順次更新中です。
このブログでは第4部「乳がん」から掲載されています。最新の状況はこちらのブログで更新していきます。
プロフィール
HN:
小春
性別:
女性
職業:
患者
自己紹介:
東京都在住。
1988年(25歳〜26歳)
ホジキン病(悪性リンパ腫)を発病し、J堂大学附属J堂医院で1年にわたって化学療法+放射線治療を受ける。
1991年(28歳〜29歳)
「再発」と言われ、再び放射線治療。
1998年(35歳)
「左手の麻痺」が表れ始める。
2005年(42歳)
麻痺の原因が「放射線の過剰照射による後遺症」であることが判明。
2006年(43歳)
病院を相手に医療訴訟を起こす。
2009年(46歳)
和解成立。その後放射線治療の二次発がんと思われる「乳がん」を告知される。直後に母ががん転移で死去。
迷いに迷ったすえ、西洋医学的には無治療を選ぶ。
2013年(50歳)
照射部位にあたる胸膜〜縦隔にあらたな腫瘤が発見される。
過去の遺産を引き続き背負って無治療続行。
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